4日目

430

夜中、娘がうなされている声で目が覚める。ゆうべのことを夢に見ているのだろうか?トイレに行きたかったが、真っ暗で何も見えないため諦める。いつの間にかまた眠りにつく。

 630

再び目が覚める。横になりながらゆうべの顛末を思い出し、笑う。なんだったんだろう、あれは。

 700

起きてきた娘が「きのう夢にワニが出てきた」と騒いでいる。「暗いところにワニが出てきて怖かった」と。うなされていたときだ。何かのトラウマにならなければいいけど。

 800

腹が減ったのでとりあえずBARを探して外に出る。アルキメデ広場に行くと2件バールがあり、近い方に入る。カプチーノとターボラカルダ(作り置き)ピザを注文。う〜ん、イタリアだろうがなんだろうが、まずいものはまずい。失敗。

近所のスーパーに寄って水を買って一度宿に帰る。

宿は、いわゆるB&Bという部類なのだが、ブレックファーストは付いてないので自分たちでなんとかするしかない。広さはダイニング5畳、キッチン5畳、キングサイズのベットがあるメインの寝室8畳、シングルベットが2つある予備の寝室5畳、バストイレ。床は全部石造りで(大理石?)古い調度品があって凄く素敵。キッチンも4口のコンロとオーブンまで付いてるから、かなりしっかりした料理ができる。20人くらいのホームパーティーが出来そうなそんな部屋。 

1100

とりあえず島を歩こうということになる。僕らが滞在していたのはシラクーサの中でも観光地であるオルティージャ島。島といっても半島で、太い2本の橋でつながっている。昼間は夜のあの怖い雰囲気とは違って観光客も多く、歩きやすい。観光客の大半は退職したと思われる白人夫婦(結局この島であった日本人は4人だけだった)。とにかく島全体が遺跡か映画のセットのような雰囲気。10分ほど歩くと、遠くにパラソルが連なった場所を発見。ひょっとして・・・、やっぱり市場だ!若干興奮して中に入ると、狭い路地に野菜、フルーツ、魚、チーズ、肉、パン、日用品など地元の人の生活に必要なものがほとんど揃いそうな品揃え。そう、こういうのが見たかったのだ。このためにわざわざイタリアまで来たのだ。やっぱりトマトは2種類。小ぶりでまん丸なものと、縦長でナスのような形をしたもの。どっちも発色が良く、つやつやして旨そう。なすは日本でいう米なすくらいの大きさ。見た目から想像するに、ちょっと大味な感じだが、実際に食べたらどうなのだろう?ズッキーニ、ピーマン、カリフラワー、ブロッコリー、インゲン豆、ウズラ豆、サニーレタス、にんにく、タマネギ、人参、フェンネル等々。不思議なのは「これなんだろ?」という野菜がほとんどないこと。もしかしたら、その辺に日本でここまでイタリア料理が浸透した理由があるのかもしれないな。そして、市場に並んでいる野菜はどれも野性的で力強さにあふれていた。うれしくなって写真を撮りまくっていたら「買わないんだったらあっちいけ!」「写真とっただろ!このドライトマト買っていけ!」と怒られる。でもたのしいから気にしない。

そして魚屋もまた、すごい種類の魚介を並べて威勢のいい声を張り上げている。アサリ/ムール貝/マテ貝/ハマグリ/エビ/スカンピ/イカ/タコ/シャコ/サメ/カジキマグロ/スズキ/黒鯛/白魚/太刀魚/真イワシ/カタクチイワシ等々。この近郊で水揚げされるありとあらゆる魚が並んでいる。地元のレストランらしき人も大量に買いに来ている。そりゃこれだけ安けりゃ買いにくるわな。

肉はなぜか加工品のみ。とんでもなくでかいモルタデッラ(ハム)、サラミ、生ハムをその場でスライスして量り売り。こっちの人はそういう手間を惜しまないんだな。なんというか極端にグルメとかじゃなく、日常的においしいものを食べるということに対して貪欲な気がする。チーズも普通に20種類くらい固まりで売っていて、どれも旨そう。

途中、しわくちゃのおじいちゃんが寄ってきて「チャーオ、バンビーナ!キレイヤ、キレイヤ」となぜか関西弁で娘のほっぺたを突っついている。なんか笑える。

ブドウを一房買って近くの広場で食べる。皮ごと食べられるブドウは味が凝縮していてとっても旨い。他にオリーブのマリネも買う。

13:00

海辺のダルセーナというリストランテでランチ。ハウスワインの白をハーフボトルと前菜の盛り合わせ、ボンゴレビアンコ、カジキマグロとズッキーニの生パスタを注文する。ワインはとてもすっきりしていて飲みやすく、前菜と一緒にぐいぐい進む。前菜は魚介のフリット、マリネ、カジキマグロのビネガーマリネ。どれもおいしいけど、マリネのエビがちょっとブヨブヨしてる。もっとプリプリのを想像していただけに残念。ボンゴレも悪くないけどちょっと油っぽいなぁ。でもカジキとズッキーニのパスタは美味!上にかかっているパン粉がいいアクセントになって、もちもちの食感のパスタもおいしい。全体としてはやっぱり場所がいいだけに観光客相手のリストランテなのかなという印象。これで45ユーロ。結構いい商売だ。料理の点数が低かったからデザートとカフェはパス。他を探すことにする。

15:00

海辺をぐるっと回ってマレーナ門の側にジェラートがおいしいカフェがあるらしいので行ってみる。

席の大半はテラスで、目の前が海というなかなかのロケーション。娘がイチゴ、アキと僕でピスタチオとヘーゼルナッツ。これがすんごい旨かった!それぞれの素材の味がしっかりしてるから、ひょっとしたら自家製かな。ジェラテリアはどこも自分のところで作っているって話を聞いたことがあるし。満足して休憩のために一旦宿に帰る。

20:00

ディナーはゆうべ助けてくれたエンゾの店、エノテカ・ソラーリアへ。

「チャーオ!ゆうべは大丈夫だったか?マンジャーモ(食事)はまだか?」

と一気にまくしたてられる。「まだなんだけど、何か作れる?」と聞くと厨房の中に入って何か作り始めた。出てきたのはでっかい餃子みたいなパン。中にほうれん草とジャガイモとツナのようなものが入っていてなかなか旨い。一緒に注文した赤ワインと、かなり気楽な夕食だ。昨日は必死過ぎて気に留めなかったけど、とんでもない量のワイン。酒屋でもあるからその場で飲んでも買って帰ってもいいらしい。メインで、ソーセージ、イワシのロースト、チキンのコトレッタを注文。一人で作って一人で運んで、他の客の相手もしてるからなかなか料理が出てこない。でも必死で動いているエンゾの様子を見ていると微笑ましくてこっちものんびり食事を楽しもうという気になるから不思議だ。ソーセージはスパイス(オレガノとおそらくアニスシード)が効いていて、なかなかの味。エンゾが選んでくれたパンチのある赤ワインとの相性もばっちり。コトレッタもイワシも笑っちゃうくらい素朴で、でもちゃんと素材の味がしてとても美味い。完全に地元の普段の食事。エンゾはたまにテーブルに来て「どうだ、旨いだろ?」みたいなことを言ってどこかに行く。いい店だなぁ。ワインに対する愛情があって、みんながエンゾに元気をもらいに行ってる。客はそれぞれのやり方でくつろいでいてそれでも店全体に共通の暖かいムードが漂っている。

お会計をお願いする時に、アキが「今日カレが誕生日なの」と英語とスペイン語とフランス語とイタリア語を総動員して説明してくれる。そう、今日は僕の32歳の誕生日なのだ。しばらくして伝票と一緒に1本のボトルと3個のグラスがテーブルに置かれる。エンゾが店内にいる客に呼びかける。

「こいつ今日誕生日なんだって。みんなでお祝いしようぜ〜!サルーテ!」

唄を歌うなんてまどろっこしいこと抜き。「ホントは自分が飲みたかったんじゃない?」っていうくらい旨そうに一気飲みしたエンゾにつられて僕とアキも一気飲み。家族と、エンゾと店内にいた6、7人のお客さんにも祝福してもらって、何ともいえない優しい気持ちで32歳の誕生日を過ごしたことは一生忘れないだろうな。