6:00

目が覚め、携帯の時計を見るとまだ6時。セントラルヒーティングのおかげで室内は暖かく、とても快適。ミラノはイタリアの中でもかなり北の方で緯度は北海道と同じくらい。窓を開けて外を見るとまだ薄暗く空気がひんやりしていてとても寒い。眠ってしまうのがもったいなくて、ベットライトで昨日のスポーツ新聞を読む。

7:30

朝食は1Fでビュッフェ。中に入ると「ボンジョルノ。カフェ?」と聞かれる。分からないという顔をしていると「カフェ、カプチーノ、ティー・・・」と言われたので「カプチーノ」と答える。マシンはチンバリの2連。手つきはなかなかだけど、薄くて味はイマイチ。イタリアの朝食らしくブリオッシュを食べる。ブリオッシュも味はそこそこ。モルタデッラ(ハム)とサラミとパンでサンドイッチを作り食べる。こっちはまずまず。

がやがやと食べていると日本人らしき青年が1人で入ってきた。雰囲気や服装から自分と何か近いものを感じる。ビュッフェを取り分けるときの手つきや振る舞いを見てもおそらく同業じゃないかな・・・。部屋に帰って「さっきの日本人の男の子、よっぽど話しかけようかと思ったけど・・・」とアキに言うと「あたしもそう思ってた」との返事。やっぱり。

9:10

すこし早いけど、ミラノをきちんと楽しめるのは今日だけということもあり、せかされるようにしてホテルを出る。最初の目的地はドゥオーモ(大聖堂)だ。シチリア滞在のことばかりに気を使って、ミラノのガイドブックどころか地図すらも持っていなかったので、ホテルのフロントでもらった地図を頼りに歩く。歩き始めて20分くらいした時、後ろから声をかけられた。「誰?」と思って見ると朝ホテルで顔を合わせた日本人だ。

「あっ、ホテルの?」「そうです。後ろ姿が見えたもので」

というわけで、お互い簡単な自己紹介をする。彼の名は山下くん、26歳。代々木のイタリアンレストランでフロアマネージャーをしていて、2ヶ月の休暇をもらいワインの勉強のために来週からフィレンツェの学校に通うらしい。とりあえず今日一日予定も無くぶらぶらするつもりだったという彼を誘い、みんなでドゥオーモまで行く事に。

一歩大通りに出ると、街の佇まいに圧倒される。ゆうべは夜で気づかなかったが、石畳の歩道、木枠のドアを持つトラム(路面電車)、古い街並。どれも本当に素敵。街全体が、以前行った事のあるヨーロッパの他の都市(ロンドン、アムステルダム)よりも「味のある枯れ方」をしている。古い建物は確かに古いけど、古いだけじゃないのだ。僕は「一緒に歳を重ねていけるか?」という基準でものを選ぶ。20歳くらいからずっとそうで、その当時に買った服や靴、鞄も当たり前のように使っている。古さが味に変わるようなものしか選ばない。だから当然高い。だからほとんど買い物をしない。特に結婚してからは金銭的な自由が無くなったという事もあるが、身につけるものをほとんど買わなくなった。ヨーロッパの文化には、そんな僕をわくわくさせてくれる何かがある。

10:15

ドゥオーモはその極みだった。ここまで巨大で、尊大で、真摯な建物を見たのは初めてかもしれない。いったいどのくらいの時間と金が投資されたんだろう。外から見て驚き、中に入ってもっと驚き、エレベーターで上に上がってものすごく感動した。正直、「ミラノコレクション」や「ミラノデザイン見本市」のイメージからもっと近代的な(現代的な?)都市を想像していて、全然期待していなかった。だからこんなに素敵なミラノの街にたった2時間で僕はすっかりやられてしまった。

ドゥオーモの広場に「ABBYROAD/Beatles」の巨大な模型があり、うれしくなって写真をたくさん撮る。デザインはジュリアン・オピー?

12:00

ダンテ通りを城の方に向かって歩き、「ダンテ」というカフェでランチ。マルゲリータ、トマトのリゾット(本当はポルチーニのリゾットが食べたかったのに!無いっていわれた)、アーティチョークのパスタ(ペンネ)を4人でつつきながら食べる。食事はう〜ん、ツーリスト向けかな。食べながら、山下君とお互いの事を話す。飲食畑、しかもお互いイタリアンだから、ものすごく話が通じやすい。バリスタを本業として、普段はフロアマネージャーをしていること。これから2ヶ月イタリアに滞在して、翌週からワインの学校に通うこと。平日は3食と宿舎までついているからどっぷり勉強。出来ればこっちでソムリエの資格を取りたいこと。週末はフリーだからいろいろな街を回ってみたいこと・・・。しかも彼は何度かD&Dに来た事があり、彼が働いている店「LIFE」はDと関係が深いTRUCKの家具をたくさん置いているそう。なんでそんなにツボな店なのに今まで知らなかったんだろ?僕の方は、自分がこれからやろうとしている店について話し、彼の意見を求める。帰ってくる答えが若いのに鋭く、的確。いや、若いのにっていうのは違うな。若いとか先輩とか、そんな事はもう関係ないんだろうな。彼と話しているとそんな風に思う。僕もこのくらいの年齢でイタリアに来れていたら、何年か滞在していたら何か変わったかな。いや、それも違うな。来れたらじゃなくて、来れなかったんだし、今来るべくして来たのだと思おう。でも、ちょっと彼の若さと自由さがうらやましくなる。それはただのないものねだりなのだろうか?

13:00

ミラノの建造物としては一番大きいというスフォルツェスコ城の中を散策する。とにかくでかいが、でかいだけで、感動は伝わってこない。走り回っていた娘が、アキにだっこされたまま寝る。

14:00

ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を見にサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会へ。

まだ時間があったので、目の前のバールで一息。イタリアでの最初のエスプレッソ。う〜ん、普通。砂糖を入れると角が取れ、いい味に。今回の旅行、バールの視察も大きな目的だから、バリスタの動きをじーっと眺める。早い、けど、雑。これがイタリア流なのだろうか?

15:45

最後の晩餐を見るためには事前予約が必要なため、山下君とはここで分かれる。かの有名な絵画。実際に見ると想像以上にでかくて、なのにとても静かなものだった。つまらないというのではない。その逆で、静かにものすごい迫力で迫ってくるものがある。反対側にも同じくらいの大きさで書かれた絵があるのだが、もう比較にならない。感動で背中の辺りがぞわぞわする。ここに来る事が出来てよかった。

16:30

別の道を通って、ドゥオーモ経由でホテルの方までまた歩く。ミラノにはとにかくバール、カフェが多い。店の参考にするために、持って来たデジカメでどんどん写真を撮影する。娘がずっと「だっこ」になってしまい、アキが辛そう。歩きながら夕飯をどこで食べるかをずっと考える。結局、アキが日本で調べたピッツエリアに行こうという事になったんだけど、大体の住所と、頭文字に「M」が付くということしか手がかりが無く、付近をさまよう。ようやく発見するも、19:00開店。隣のマックで時間をつぶす。

19:00

入口で「子供がいるけど大丈夫?」と聞くと、「もちろん。気にすんなよ(著者訳、というか推測)」というラフな答え。入るとすぐにどでかい薪の釜があり、腹の出た兄ちゃんが手つきよくピッツアを焼いている。みょーに人懐っこい店員がテキパキと対応してくれる。いかにもピッツエリアという感じ。ラフだけど、気が利いていて気持ちがいい。こりゃ料理も期待出来そう。ピノネロのハーフボトル、魚介のマリネサラダ、マルゲリータを注文する。白ワインが、歩き疲れた体に染み渡る。旨い。魚介のサラダもなかなか。海から遠いミラノでもこのくらいのものは出せるんだ。そしてマルゲリータ。うん、旨い。あの兄ちゃんの腹も伊達じゃなかったって事だ。生地はやや厚め。もう少し食えそう、という事で昼間食えなかったポルチーニのリゾットを追加する。これがマジで旨かった!本当に本当にシンプルな味だけど、ポルチーニの食感、チーズの風味、だしの効いた味付け。はぁ〜、これがイタリアの味なんだね。ミラノで旨いリゾットが食えてよかった。デザートにジェラートミスト。これはまぁ普通かな。悪くないけど、びっくりはしない。アキはカフェ。ミラノ初日から旨い店にたどり着けて満足。

21:00

ホテルへも歩いて帰って、疲れきってそのままベットにバタン。風呂は明日の朝にしよう。変なテンションのまま寝る。